導入事例|日産自動車株式会社

GLロガーでフリートロギングを効率化 - ツール提供と利用の役割分担の明確化も実現

パワートレインECUを対象にしたフリート試験(試作車を使った公道走行試験)でのデータ収集に、ベクターのGLロガーが、日産自動車株式会社(以下、日産自動車)のソフトウェアデファインドビークル開発本部に採用されました。内製のロガーに比べて、高速なCAN FDバスや最新のA2L規格に対応、4G/LTEを介したリモートデータアップロードが可能であることが採用の決め手となりました。

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リモートにおけるフリートロギングの効率化が課題に

新型車の開発において、数十台の試作車を使った長距離にわたる実走行試験を「フリート試験」と呼びます。実際の走行環境あるいは過酷な環境における機能や性能の評価、各部品の耐久性や信頼性の評価、ユーザーの使い勝手の評価などがフリート試験の主な目的です。

フリート試験においては、走行状態の統計解析、頻度解析、傾向分析のため、また不具合が発生した場合にあとから解析ができるように、タイムスタンプ、気温や気象、ドライバーの操作、車両の挙動、EV車やハイブリッド車においてはバッテリーの状態、各センサー出力、位置情報の各ECUのRAM値などを、車両に搭載したロガーによって取得する必要があります(試験の目的によって取得するデータは異なります)。このロガーが「フリートロガー」です。

なお、国内での試作車の走行は実用化や普及が見込まれる新技術の評価を目的にした場合を除いて認められていませんので[*]、法的に認められている海外でフリート試験を実施し、データを収集して解析をしています。併せて、開発拠点のグローバル化、開発体制の複雑化、車両機能の複雑化などを背景に、フリート試験の効率化や自動化の必要性が高まっています(図1)。

[*] 道路運送車両の保安基準第56条第4項

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図1. 開発拠点のグローバル化や車両機能の複雑化を背景に、フリート試験においても効率化が不可欠に

内製のロガーをベクターのGLロガーに切り替え

日産自動車では日産独自のハイブリッドシステムを搭載したパワートレインのフリート試験に、内製のフリートロガーを使用してきました。ただし、いくつかの制約が生じていたと、ソフトウェアデファインドビークル開発本部で評価環境の開発を担当する主担の廣田和史氏は説明します。

「内製ロガーはかなり以前に開発されたこともあり、CANよりも高速なCAN FDに対応できていないなどの課題を抱えていました」

2018年頃に廣田氏の部署では内製ロガーに代わるフリートロガーの導入検討を開始しました。まず、ロガーソリューションを提供するベクターを含む各ベンダーに対し、自社の要件を満たせるかどうかを評価するフィージビリティスタディを委託しました。

他社のロガーソリューションとの比較を踏まえ、内製ロガーの代わりとして採用されたのが、ベクターのGLロガーでした。

「高速なCAN FDバスのロギングが可能なこと、ECUのRAM値取得時に参照するA2Lファイルの最新規格に対応していること、当社の独自拡張のarxmlもファームウェアのアップデートで読み込めること、取得したデータを4G/LTE回線を通じてクラウドに効率的にアップロードできること、その後のデータ処理を柔軟に行えること、スタンバイモードからの起動時間の速さと消費電流が当社の要求を満たしていたことなどを評価し、ベクターを選定しました」と、ソフトウェアデファインドビークル開発本部の谷仲智大氏は説明します。2020年に20台強のGL2400を導入したのを皮切りに、2022年までにGL3400を数十台レベルで導入し、主に海外でのフリート試験に展開しています。

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図2. ベクターのGLロガーのラインアップ。小型のGL1000ファミリーから、車載Ethernetに対応したGL5000ファミリーまでを揃えている。日産自動車がパワートレインECUのフリートロギングで、メインで利用しているのがGL3400である(図左下の右側)

リモートロギングに対応したベクターのフリートロギング

ベクターのGLロガーはフリート試験に最適なロギングシステムです。もっとも小型のGL1000ファミリーから、Ethernetにも対応したGL5000ファミリーまでをラインアップしています(図2)。日産自動車がパワートレインECUのフリート試験に導入したGL3400は、CAN FD×8チャンネル、LIN×6チャンネル、デジタル入力×6、アナログ入力×14チャンネルを備えた2021年発売のミッドレンジモデルです。

GLロガーは、CAN、CAN FD、車載Ethernet(GL5000)などの車載ネットワークのメッセージのロギングや、CCP/XCPによるECU RAM値の読み出しなどに対応しているほか、機種によっては、GPS、カメラ、各種アナログ信号を接続することもできます。

取得した生データは、Ethernet、USB、メモリカード、Wi-Fi、または4G/LTE回線を介して、お客様のサーバー環境、もしくは、ベクターが提供しているセキュアなクラウドサービス「vLoggerCloud」(無償)に転送が可能です。Microsoft Windows上で動作するデータ変換ソフトウェア「ML Server」(無償版/有償版)で変換したのち、ベクターのCANape、vSignalyzer、CANoe、CANalyzerなどで解析することができます。

図3に示すように、お客様のさまざまなニーズに応えられるように、お客様のサーバー環境を使ったリモートロギングと、前述のクラウドサービス「vLoggerCloud」を使ったリモートロギングのいずれにも対応しています。

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図3. 顧客サーバーとベクタークラウドの2種類のリモートロギングに対応可能なベクターのGLロガー

ロギングサイクルがスムーズに回るようにワークフローを設計

日産自動車のパワートレインのフリート試験の概略フローを図4に示します。

  1. フリート試験を担当するドライバーが試験車のイグニッションスイッチ(IG)をオンにすると、CANバス上に流れるXCPのシグナルをGL3400が検知し、ロギングが開始される(IGオフでロギング終了)

  2. GL3400で取得したデータは、走行中に4G/LTE経由で15分ごとに、または走行後にネットワーク経由で日産自動車が管理するAWS (Amazon Web Services) に自動的に転送される

  3. AWSのVM(Virtual Machine)上に展開されている「MLserver」(ベクターのデータ変換ツール)を使用し、CLF形式などの生データをMF4(MDF4)形式に変換する

  4. アップロードされたデータは、その後の解析を容易にする目的で、IGオンからIGオフまでを1単位とする「ワントリップ」と呼ばれるファイルにまとめられる。この処理は独自開発ツールを用いて自動実行される

  5. 頻度解析や設定閾値などの機能を搭載した内製のデータ解析システムを用いて、不具合の可能性のある箇所の一次フィルタリングを行う。これら一連の処理がドライバーやオペレータの手を介さずにすべて自動実行、自動処理されることが特長である

  6. 必要に応じて、ユーザーが走行結果の詳細な解析を実施する

パワートレインECUのフリート試験だけで、閲覧あるいは解析のためにデータにアクセスする人はグローバルでおよそ2,000人に達しており、「データを効率的に取得して、サーバー上でデータ解析を行って、その結果を開発にフィードバックする、というサイクルがスムーズに回るように、ワークフローを開発しました」と谷仲氏は説明します。

ロギングの対象は、パワートレインECUのRAM値のほか、バッテリーの電圧やSoC(充電状態)、e-POWER車においてはエンジン周りのセンサー出力などです。

 

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図4. フリートロギングのフロー図

「ユーザーであるパワートレインの開発部門からは、最低でも340ラベル(340種類)のRAM値を取得したいという要望が寄せられています。ただしXCPでの読み出し数を増やしてしまうとCAN FDバスのトラフィックが上がってしまいますので、その中から優先度の高いRAM値に絞り込んで運用しています」と谷仲氏は説明します。

マイコンのデバッグポート(JTAG等)を使えばより多くのRAM値を読み出すことも不可能ではありませんが、加工が必要になります。「フリート試験はECUの耐久性評価も兼ねていますので量産予定のECUがそのままの状態で使えることが望ましく、そのためRAM値の読み出しにはXCPを使っています」と廣田氏は述べています。なお、社内の閉じた環境でデータを管理したいとのニーズにより、ベクターのクラウドサービス「vLoggerCloud」は利用していませんが、オンプレミスで利用可能なvLoggerCloudが展開され次第、検討を開始する予定です。

内製時代に比べて役割が明確化されロギングも効率化

GLロガーの導入はどのようなメリットをもたらしたのでしょうか。谷仲氏は、内製ロガーツールからベクターのGLロガーに切り替えたことで次のようなメリットが得られていると述べています。
「ベクターがツールを提供し、我々の部署でシステムとワークフローを組んで手順を標準化し、開発部門が活用する、といったように、内製のときと比べてそれぞれの役割と責任が明確化されたことが一番のメリットと感じます。内製ロガーツールのメンテナンスも不要になりました。また、GLロガーは準備や操作もシンプルですので、ロギングに伴う工数の削減も図れています」

廣田氏は、「フリート試験のドライバーは外部に委託していますので、ロギング作業の効率が上がったことで拘束時間がわずかですが短縮され、委託費の削減につながっている、という話を当該部署から聞いています。そうした効果もあり、パワートレインECUのフリートロガーはGL3400に切り替わっています」と説明します。

今後、SDV(Software-Defined Vehicle)の実現に向けて、E/Eアーキテクチャはドメイン型からゾーナル型(ゾーン型)に移行していくと見込まれています。また、ECUの集約に伴い、読み出すべきRAM値の種類も増加していきます。廣田氏らは、そうした将来像を見据えながら、リモートロギングの方法も進化させていく考えです。

ベクターでは、こうしたトレンドや同社のニーズを考慮し、引き続き使いやすいロガーソリューションの提供に努めていきます。

記載されている会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。所属、役職、諸元、ソリューション名などは、本記事発行時点の情報です。

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