メルセデス・ベンツの成功事例:クラウドでの自動テスト
サーバーベースの自動テストによるSDVイノベーションの実現

仮想テストプラットフォームと自動テストプロセスの重要性はますます高まっています。このケーススタディでは、メルセデス・ベンツ社がサプライヤーと協力し、CI/CDパイプラインとCANoe Server Editionを組み合わせて開発/テストプロセスを効率的かつスケーラブルに実現した事例を紹介します。
今日の車両機能が複雑化および多様化するのに伴い、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)に代表される、柔軟なソフトウェアベースのアーキテクチャに対するニーズも高まっています。SDVを採用すれば、革新的な機能やサービスをアジャイルで展開し、継続的に更新、デプロイしていくことが可能になります。しかし、従来のハードウェアベースの統合/テストプラットフォームでは、複雑化および多様化する最新の車両システムは次第に扱いにくくなっています。それらのプラットフォームは物理コンポーネントに依存しているため、拡張やタイムリーな検証が困難になっています。vECU(仮想ECU)を利用することにより、この依存関係を大きく減らし、テストワークフローの柔軟性、効率性、拡張性を高めることができます。vECUは「デジタルツイン」として、仮想テスト環境に早い段階で、しかも柔軟に組み込むことができます。またvECUではテストを並列化し、非常に高速に実行することができます。この点はハードウェアベースのセットアップと比較すると圧倒的に有利です(図1参照)。
車両開発の進歩に加え、サイバーレジリエンス法によって企業にはセキュリティインシデントの発生から72時間以内に徹底的な分析と具体的な対策を提示することが求められるようになりました。この要求により、開発部門では再現可能かつ自動化されたテスト手続きを確立し、検出されたセキュリティスレッドに迅速に対応できるようにすることが急務となっています。テストを自動化することにより、修正箇所を迅速に検証し、セキュリティの脆弱性に効率的に、しかも遅延なく対処することが可能になります。
仮想プラットフォームによる効率的なテストプロセス
これまでメルセデス・ベンツでは、サプライヤーの最終的なハードウェアサンプルが納品されるまでテストの開始を待たねばならず、検証プロセスは遅れ、ソフトウェアコンポーネントのテストにおける柔軟性も損なわれていました。この課題に対する同社の戦略的対応がvTestingプラットフォームです。2020年にPoCとして開始されたこのプラットフォームは、同社のテストインフラストラクチャにおける主要な構成要素へと進化を遂げ、現在では複雑なソフトウェア機能の信頼性と拡張性を確保する、開発プロセスにとって欠かせない役割を担うようになっています。


ハードウェアを使用しないソフトウェアテスト:vTestingプラットフォームによるシフトレフト
vTestingプラットフォームにより、SIL (Software-in-the-Loop)のセットアップを使用して、物理ハードウェアが利用可能になるかなり前にサプライヤーのソフトウェアスタック全体をテストできるようになりました(図2参照)。メルセデス・ベンツとそのサプライヤーは、MB.OSポータルで最新のソフトウェアバージョンを個別にアップロードしたり、それらにアクセスしたりして、シームレスなコラボレーションと迅速な検証を実現しています。アップロードプロセスはAPI連携を通じて完全に自動化でき、CI/CDパイプラインでのコミットやマージリクエストの一環としてソフトウェアバージョンをプッシュすることができます。シミュレーションにはvVIRTUALtargetまたはSynopsys Silverから生成された仮想ECU、幅広いテストケース、ポータルから直接提供される診断データが含まれます。コンフィギュレーションとテストシナリオは、どちらもvECUと追加のメタデータに基づいて動的に生成されます。診断、セキュリティ、バスシステム用の標準化されたテストと機能チェックが実行されるため、開発者やテスターは事前定義済みのテストケースにすぐにアクセスし、それらを適用することができます。メルセデス・ベンツはすべてのサプライヤーに仮想ECUの使用を義務付けており、vECUは調達プロセスの重要な要素となっています。テスト環境は「Everything as Code」の原則に従って構成され、すべての設定とプロセスの透明なトレーサビリティと一貫したバージョン管理が保証されています。
DevOpsパイプラインは複数のCANoe Server Editionを並列実行することにより、複雑なソフトウェアシステムの検証と保護をスケーラブルかつ効率的に、しかもハードウェアに依存することなく実施できる、堅牢な基盤となっています。インフラストラクチャが一元化されていることで部門間でのライセンス共有も可能になり、ライセンスのコストを複数のチーム間で効率的に配分できます。


サプライヤーから見たソフトウェアの早期自動テストのメリット
vTestingプラットフォームを共同で利用することはサプライヤーにも大きなメリットがあります。メルセデス・ベンツのCI/CDパイプラインに組み込まれることで、サプライヤーは結合テストや受け入れテストを効率的に、しかも高い信頼性で実施できるようになります。仮想テスト環境へのリンクによって早い段階での検証が可能になり、開発サイクルが大幅に加速するとともに全体的なコラボレーションも向上します。ハードウェアの問題やボトルネックを早期に検出して解決し、ダウンタイムを効果的に回避するうえで、このテスト環境は中心的な役割を果たしています。また、最新のソフトウェアバージョンを個別にアップロードし、自動テストを実行することにより、サプライヤーは自社のソフトウェアの成熟度レベルに関するフィードバックを早期に受け取ることができます。テスト結果に迅速にアクセスできることで、コード品質が向上し、手戻りが最小限に減り、アジャイルチーム内での継続的なソフトウェア開発を促進します。
ほとんどの場合、vECUの生成にはそれほど手間はかかりません。デュアルターゲットのコンセプトによって、仮想ECUと物理ECUの一貫性が維持管理されます。さらに、ベクターが特定のユースケース向に合わせてvVIRTUALtargetでvECUを仮想化し、サプライヤーや自動車メーカーに納品することも可能です。
SDVとアジャイル開発への対応
vTestingプラットフォームの導入は、車載ソフトウェア環境における開発/テストプロセスの迅速化と柔軟性向上にとって欠かせない一歩です。早い段階で品質保証を自動的に実施し、物理ハードウェアに依存することなくソフトウェアの検証を実施できることは、メルセデス・ベンツとそのサプライヤーにとって大きなメリットです。メルセデス・ベンツの社内分析では、vECUを使用したSILテストは、テストスイートによって変動はあるものの、物理ハードウェアで実施したテストと最大95%の相関を達成しており、問題の早期特定および解決と開発期間の短縮化に貢献しています。仮想テスト技術の継続的な開発によって、SDVのアジャイルなワークフローとソフトウェア検証がさらに強化され、企業は進化するデジタル競争で確実に成功を収めることができます。
