vVIRTUALtargetによるエンジンECUの仮想化でBSWテストの効率化を実現
成功事例:日立Astemo

日立Astemo(旧・日立オートモーティブシステムズ*1)は、エンジンECUの仮想化とテストの自動化に取り組んでいます。仮想化ツールとしてべクターの「vVIRTUALtarget」を導入し、AUTOSARを構成する一部のBSWモジュールに適用したところ、テストシナリオの実行時間の大幅な短縮を実現。そのほか、テストの網羅性向上やHILS(統合テスト)とのテストシナリオの共通化など、さまざまな効果を得ています。


テスト効率の向上を目的にBSWの仮想化に取り組む
ECUソフトウェア・アーキテクチャの標準化を通じて、ソフトウェア部品の再利用化の推進と開発・検証工数の削減を実現する「AUTOSAR」(AUTomotive Open System Architecture)の採用が広がっています。
日本のサプライヤーの中でAUTOSARに比較的早くから取り組んできたサプライヤーの一社が、パワートレインシステムや自動運転・先進運転支援システムなどを日本を含む世界のさまざまなOEMに供給している日立Astemo(旧・日立オートモティブシステムズ)です*1。なお、同社の取り組みの一部は、「ボトムアップアプローチによるAUTOSAR適用」と題してVector Journal vol.16(2018 年5 月発行)に掲載されていますので、併せてご参照ください*2。
日立Astemoでは、エンジン制御ECUのBSWおよびSW-Cのテストを効率化することを目的に、ベクターのECU仮想化ツールである「vVIRTUALtarget」(図1)を用いてECUの仮想化とテストの自動化に取り組んできました。
「ECUをパソコン上に仮想的に再現できれば、試作ECUや入出力ハードウェアを用意することなく、その挙動を速やかかつ効率的に確認できます。ゆくゆくはECU全体の仮想化を目指していますが、まずは一部のBSWモジュールを対象に仮想化を進めることにしました」と、同社ソフトウェアプラットフォーム設計部の山崎圭巳氏は説明します。


仮想環境でのテスト対象としたのは、エンジン制御ECUに搭載されるBSWのうち、DEM/FIM(Diagnostic Event Manager/Function Inhibition Manager)、DCM(Diagnostic Communication Manager)、およびCOM(Communication Manager)です(図2)。本稿では山崎氏が担当しているDEM/FIMについて説明します。
ここでDEMとは、BSWの他のモジュールやASW(SW-C)で判定されたエンジンや触媒の診断情報を集約し、故障に応じてインパネの警告灯を点灯させたり、故障情報を不揮発性メモリに記録する役割を担うモジュールです。本稿で採り上げているエンジンECUの場合で、対象となる故障はおよそ1,500種です。
一方のFIMは、エンジンの故障情報に応じて、たとえばクルーズコントロール機能を無効化するなどの機能制限を行って故障の影響を最小化するモジュールです。故障情報を集約してSW-Cに通知する働きもあります。


ツール連携と実行性能からvVIRTUALtargetを選択
同社が導入したベクターのvVIRTUALtargetは、Microsoft Windows 10上にAUTOSAR環境を仮想的に実現するツールソフトウェアです。ベクターの「MICROSAR」(AUTOSAR Classic)のBSW部分またはSW-C部分のテストおよびインテグレーションが可能なほか、AUTOSAR Adaptiveに相当するベクターの「Adaptive MICROSAR」のテストおよびインテグレーションが可能です。
製品のバリアントとしては、上記すべてに対応した「vVIRTUALtarget pro」(VTT pro)と、MICROSARのBSWを統合したECU仮想化のみに対応した「vVIRTUALtarget basic」(VTT basic)の2種類が提供されます(図3)。


「日立AstemoではAUTOSARのBSWとしてベクターのMICROSARを採用し、そのほかにもCANoeをはじめとするさまざまなベクターツールを導入しています。市場にはいくつかのECU仮想化ソリューションが登場していますが、既存の環境とシームレスに連携できることもあって、vVIRTUALtargetを選択しました」(山崎氏)。
もうひとつの理由として、山崎氏は実行性能を挙げています。「従来はマイコンベンダーが提供するエミュレータを使用してDEM/FIMのテストを実行していました。マイコンの挙動は正確に再現されるのですが処理速度が遅いという課題がありました。vVIRTUALtargetによって数倍の高速化が期待できると見込まれたことも採用のきっかけとなりました」。
MICROSARにおける大まかなシステムインテグレーションの流れを図4に示します。BSWの設定ツールであるベクターの「DaVinci Configurator Pro」を用いてMICROSARのコンフィギュレーションを行い、生成したコード(.c/.h)をvVIRTUALtargetに与え、vVIRTUALtarget上で仮想ECUを生成し、その後、CANoe上で実行します。
なお、DaVinci Configurator Proによって生成されたコードは、実ECU上にインテグレーションすることも可能です(図4上側)。


テストシナリオの実行時間が1/3に - 網羅性も向上し品質にも貢献
同社での大まかなフローは図5のとおりです。V字モデルの左辺においては、AUTOSARのSW-Cの開発にベクターの「DaVinci Developer」、MICROSARのBSWの構成設定とコード実装に「DaVinci Configurator Pro」をそれぞれ使用。右辺では、vVIRTUALtargetを用いて仮想ECU上でBSWのテストの効率化を図っています(現在はBSWモジュールの単体テストのみ)。
vVIRTUALtargetによってビルドされた仮想ECUはCANoeに組み込まれ、仮想的なCANバスから与えられた入力に対して、CANバスへの値の出力、フラッシュメモリへの書き込み、他のBSWモジュールやSW-Cとの通信など、何らかの応答を返します。


テストシナリオは、自動テストシーケンスの作成ツールであるベクターの「vTESTstudio」と日立Astemoの内製ツールを使って作成しています。また、CANの通信テストなどは、ベクターの「VTシステム」を使ったHILS用のテストシナリオを使用することで、効率を高めるとともに、二重化によるミスを防いでいます(図6)。
vVIRTUALtargetを導入した効果について、山崎氏は次のポイントを挙げています。「まず、テストの実行性能が劇的に向上しました。マイコンベンダー提供のエミュレータに比べて、数万件のテストシナリオの読込み、実行、結果判定、およびMicrosoft Excelでの集計がおよそ1/3の8時間で完了するようになりました。たとえば退勤時にvVIRTUALtargetを走らせておくと、翌日の出勤時にはテスト結果を集計したExcelファイルが作成されているので、すぐに確認できます」と山崎氏は説明します。
テスト時間が短縮されたことで、これまで以上に網羅的なテストが可能になり、結果として品質の向上にもつながっていると、山崎氏は説明します。また、「日立Astemoでは世界の複数拠点で開発を行っています。仮想環境であれば、実ECUを各拠点に配布しなくても済むため、グローバルな開発を進めるうえでも効率的です」とも述べています。
なお、仮想環境での実行で課題になるのが実ECUとの実行タイミングの違いです。そこで、代表的なテストシナリオや、ハードウェアを使わないと確認できないテストについては、実ECU(試作ハード)上でテストを行って対応しています。


CI/CTやSW-C仮想化にも取り組み、さらなる効率向上を目指す
日立Astemoでは、テストと修正を短いサイクルで繰り返し行う「CI/CT(Continuous Integration/Continuous Testing)」にも取り組んでいます。
CI/CTは、テストで見つかった複数の問題をまとめて修正し、まとめてテストをするのではなく、修正とテストを頻度高く行ってイタレーション・サイクルを小さくし、手戻りを減らすことを目的に生まれた開発手法です。IT分野で広まりつつある、開発と運用を連携させて品質の向上とリリースの短期化を実現する「DevOps」や「CI/CD」に共通する考え方といえるでしょう。
CI/CTのうちCIについては、CI/CDの標準的手法となっているgitlabやartifactoryを使ってコンフィギュレーション、コード生成、ビルドを一括で行う環境をクラウド上に構築し、活用を始めています(図7)。
「バグ修正や機能変更を手軽かつ速やかに反映できるだけではなく、クラウドを介することで拠点を問わずに開発を進めることができます」と山崎氏は説明します。「現在はインテグレーション(CI)だけですが、近いうちにテスト(CT)についても取り組んでいく計画です」。
なおベクターでは、こうしたニーズに応えて、CI/CTシナリオに最適化したvVIRTUALtarget Server Editionを提供しています。
以上、日立AstemoにおけるvVIRTUALtargetの活用について説明してきました。エンジンECUの開発では、基本となる設計を複数の車種や複数のOEMに横展開する場合が多いため、テストシナリオの実行時間短縮はN倍となって効いてきます。同社では、今後はBSWとSW-Cとの統合テストも含め仮想化範囲の拡大を進めて、さらなる効率化に取り組んでいく考えです。
ベクターでは、vVIRTUALtargetをはじめとする先進的なツールの提供を通じて、日立Astemoのニーズに応えていきます。
