VTシステムを用いたシステムテスト環境の構築

▼導入企業
- カルソニックカンセイ株式会社 -

自動車開発において部品のモジュール化が進むにしたがい、システムテストの必要性が高まっています。カ ルソニックカンセイ株式会社(以下、カルソニックカンセイ)は、メーター制御システムにおいて、ベクターの ECUテストソリューションを導入し、システムテスト環境を構築することに成功しました。

▼システムテスト導入の背景

部品のモジュール化

自動車の多機能化が進展するに伴い、それらを実現するために搭載される部品の数は増加傾向にあります。部品点数を削減し、それによる軽量化、省燃費化を実現するために、各部品を集合体に(モジュール化)して設計および開発することが求められています。カルソニックカンセイは、モジュールシステムをグローバルに提供する数少ないサプライヤーとして、コックピットモジュールやフロントエンドモジュールなどを自動車メーカーに提供しています。
コックピットモジュールとは、ステアリングメンバーを骨格に、インストルメントパネル、エアコンユニット、メーター、エアバックモジュール、電子コントロールユニット(ECU)、オーディオ、ワイヤリングハーネス、ステアリングコラム等を統合したモジュールです。モジュール化するメリットを、カルソニックカンセイ開発本部開発信頼性統括グループ西田尚史氏は次のように語ります。「モジュール化のメリットは開発面だけでなく生産面にも及びます。例えば、自動車メーカーの組立工場において、搭載する部品点 数が多ければ多いほど工数が掛かるため、搭載する部品をモジュール化し部品点数を削減すれば、組立作業を効率化できます。」

システムテストの重要性

部品がモジュール化(システム化)すると、開発段階において部品の単体テストだけでは検証が難しい内容が生じるため、システム全体での検証作業(システムテスト)が必要となります。「システムテストでなければ検証が難しい内容としては協調制御のタイミングがあります。例えば、電源を入れてから起動するまでの時間は各ECUによって異なるため、あるECUではスタンバイが完了していても、もう一方のECUではスタンバイが完了していないケースもあります。次に、仕様の解釈の違いがあります。メッセージを送信する側のECUと受信する側のECUとが異なった仕様になっていると、各ECU単体では仕様通りに作られていても、システム全体としては仕様の誤解釈が生じるという問題が発生します。そのため、システム全体として起動のタイミングが一致しているか、仕様の誤解釈がないかを確認する必要があります。」(西田氏談)
カルソニックカンセイは、これまでECUの単体テストにベクターの車載ネットワーク用開発ツール「CANoe」を使用していました。そして、単体テスト終了後、必要に応じて各ECUを繋ぎ合わせ、システム全体での検証作業を行っていました。「これまでも、システムテストの必要性は感じていましたが、システムテスト環境の構築に多大な工数が必要になるという懸念もあったため、中々着手できずにいました。しかし、長期的な視点で考えた際、単にECUテストを効率化するという目的だけでなく、継続的にECUテストの技術と精度を向上させ、質の向上(テストの質、ECUの品質)を図っていくためには、システムテスト環境の構築が必要だと判断しました。」(西田氏談)

▼ベクター製品によるシステムテスト用ソリューション

VTシステムによるシステムテスト環境の構築と自動化

カルソニックカンセイが、当初目指したものは、常時システムテストができる環境を構築することでした。そのため、カルソニックカンセイは、CANoeを利用して各ECUを常時接続できる環境を構築することを検討しました。しかしベクターはCANoeだけでなく、CANoeと連携して使用することでCAN通信とデジタル・ア ナログ信号を同時に制御できるI/Oテスト用ハードウェア「VTシステム」や、テストケースを容易に作成できる「テストオートメーションエディター(TAE)」、診断仕様をデータベース化することでテスト作成の効率化とテスト品質の向上を図る「CANdela製品ファミリー」、多様な妨害テストが可能な「CANstressDR」といった、ベクターのECUテストソリューションを包括的に提案しました。(図1、図2)「VTシステムを導入すれば、手動では困難なテストが実現できると感じました。例えば、手動でスイッチのONとOFFのタイミング を100ms、200ms、300msと一定の間隔で実施するのは非常に困難ですが、VTシステムを活用すれば、さらに短い周期(10ms毎)でも自動でスイッチのONとOFFが制御でき、テスト精度が向上します。」(西田氏談)

図1: テストシステムハードウェア構成
図1:テストシステムハードウェア構成

図2:テストシステムソフトウェア構成
図2:テストシステムソフトウェア構成

カルソニックカンセイは、ベクターが提案したソリューションを、メーター、エアコン、電子コントロールユニットの3つのECUから構成されるメーター制御システムで導入しました。さらに、ベクターは、「診断テスト」「I/Oテスト」を想定した計5つのテストケースをカルソニックカンセイに提供しました。(表1)

表1:ベクターが提供した5つのテストケース
No テスト
の種類
テスト
ケース
テストの内容 利用したベクター製品機能
1 診断
テスト
CANバス全体の妨害テスト
  • 外部電源のON/OFF、出力電圧を制御
  • CANバス全体の妨害テスト
  • ECUが異常を検出しているかの判定
  • CANoe GPIBアクセス機能
  • VT1004内蔵リレー
  • CANstressDRアナログ妨害機能
  • CANoe診断機能
  • CANoeテスト機能
2 各ECU用CANスタブライン
の妨害テスト
  • 外部電源のON/OFF、出力電圧を制御
  • 各ECU用CANスタブラインの妨害テスト
  • ECUが異常を検出しているかの判定
  • CANoe GPIBアクセス機能
  • VT1004内蔵リレー
  • VTシステム用カスタマイズモジュール※1
  • CANoe診断機能
  • CANoeテスト機能
(※1) CANスタブライン妨害には、今後リリース予定の標準モジュールでも対応予定
3 I/O
テスト
スイッチのシミュレーション
テスト
  • 外部電源のON/OFF、出力電圧を制御
  • 各ECU向けスイッチ入力のシミュレーション
  • CANoe GPIBアクセス機能
  • VT1004内蔵リレー
  • VT2004内蔵リレー
  • CANoeテスト機能
4 出力テスト
  • 外部電源のON/OFF、出力電圧の制御
  • CANメッセージ中のシグナル値の変更
  • CANoe GPIBアクセス機能
  • VT1004内蔵リレー
  • CANoeテスト機能
  • VT1004 PWM測定機能、
    CANoeテスト機能
5 センサーのシミュレーション
テスト
  • 外部電源のON/OFF、出力電圧を制御
  • センサー入力のシミュレーション
  • CANoe GPIBアクセス機能
  • VT1004内蔵リレー
  • VT2004ディケード抵抗
  • CANoeテスト機能


これらテストケースは、CAPL(C言語ライクなCANoe用スクリプト言語)およびCANoeテスト用XMLで定義されています。特に主要なテストシーケンスがXMLで定義されていることから、CANoeテストXML専用エディターである「テストオートメーションエディター(TAE)」を用いることで、ドラッグアンドドロップを利用した直感的なGUIを用いて簡単に、新規テスト定義作成や既存テスト定義拡張ができます。(図3)

図3:テストオートメーションエディター (TAE)
図3:テストオートメーションエディター (TAE)

ベクターが提供した5つのテストケースのうち、カルソニックカンセイがまず拡張に着手したのは、診断テストケースでした。「まず、診断関連のテストケースに着手したのは、診断テストはどのECUにも必要なテストであるため汎用性が高いと考えたからです。今後は、残りのテストケースを活用してI/Oテストの自動化にも着手していきたいと考えています。VTシステムを活用することで、これまで手動で行っていたスイッチのONとOFFの切り替え作業を自動化できるので、大幅な工数削減が見込めると思います。」(西田氏談)

診断データベースの利用

カルソニックカンセイではこれまで、各ECUの診断リクエスト、診断レスポンス、診断パラメーター等をExcelで管理し、それをもとにECU診断機能の解析やテストを人手で行ってきましたが、今回のテストソリューション導入に際し、こうした情報の「CANdelaデータベース(ベクターの診断データベース)」での管理も導入しました。これにより次のようなメリットが享受できます。
  • テスト定義の容易化
    CANdelaデータベースを利用することにより、診断テスト定義において診断リクエスト、診断レスポンス、診断パラメーターといった診断オブジェクトを、その識別名称で扱えます。またTAEでの診断オブジェクトのドラッグアンドドロップ設定や、CAPLエディターでの診断オブジェクトのダイアログからの選択といった入力支援機能も活用でき、テスト定義が容易になることによる効率化のほか、ケアレスミスの減少にもつながります。

  • ECUの派生仕様への対応
    同じ機能を持つECUであっても、例えば仕向け地の違いにより、診断パラメーターのバイト位置が変わるなど細かな差異が生じることがあります。CANdelaデータベースではこのような差異を「ECUバリアント(派生仕様)」として管理できます。また診断テスト定義を、バイト位置ではなく診断パラメーターの識別名称を利用して組むことにより、このような差異を吸収できます。この仕組みにより、一度作成したテスト定義をさまざまなECUのテストに簡単に再利用でき、省力化、効率化が達成できます。
さらに、CANdelaデータベースを活用することで、次のようなメリットも期待できます。

  • 診断通信機能の利用
    CANoeでは、簡単な操作で診断リクエストが送信できる、「診断コンソール」が使えるようになります。診断レスポンスを受信すると、メッセージ中のデータが物理値で表示されます。また、この診断コンソールでの操作をボタン一つでマクロとして記録し、繰り返し再生することもできます。

  • 診断通信の解析
    CANoeだけでなくCANalyzerでも、診断通信の内容を解析して表示させることが可能になります。これにより、トレースWindowに診断リクエスト、診断レスポンス、診断パラメーターの内容表示や、グラフィックWindowに診断パラメーター値の時系列波形表示が可能になります。

  • データベースを軸にした診断機能の開発
    診断仕様をデータベースとして設計し、この単一のデータベースに基づいてECUを開発、評価することで、仕様の解釈違いや評価ミスがなくなり、上記のテスト定義の効率化に加えて、さらに工数を削減しながら同時にECUの品質を向上させられます。

システムテストの更なる拡張

今後カルソニックカンセイは、VTシステムを利用してI/Oテストの自動化を図るとともに、CANoeのシミュレーション機能を利用して、メーター制御システムの通信相手となるECUの仮想ノードを作成し、システムテストを実施することも視野に入れています。

▼まとめ

要約と展望

カルソニックカンセイは、ベクターのECUテストソリューションを導入したことで、システムテスト環境を構築しただけでなく、ECUテストの自動化への環境も整えました。(図4)カルソニックカンセイとベクターは、両社の協力関係のもと、今後もシステムテストの拡張を推進していきます。「ベクター・ジャパンのサポートにより、当初想定していたよりもスムーズにシステムテスト環境を構築することができました。また、システムテスト導入により、システムに何か不具合があった場合に容易にフィードバックテストが実施できるのも大きなメリットの1つです。」(西田氏談)

図4:テストシステムのイメージ ※画像はカルソニックカンセイより提供
図4:テストシステムのイメージ


本システム導入を振り返って

カルソニックカンセイ株式会社
開発本部 開発信頼性統括グループ
西田 尚史氏
「これまで実現できていなかった、システムテスト環境の構築の第一歩を踏み出すことができ、非常に嬉しく思っています。また、私たちが考えていたテスト技術と精度の向上をハード、ソフトとさまざまな視点から実現していますので、システムの運用がテストの質、製品の品質の向上につながるものと感じています。質と同様に要求される効率化や工数削減についても、運用していくことで自ずとついてくるものと確信しています。今後は、構築したテスト環境を基にして、さらに自動化の範囲を拡張していきたいと思います。テストケースの提供など多くのサポートをして頂いたベクター・ジャパンに感謝します。」

ベクター・ジャパン株式会社
開発ツール部 チームリーダー
菅野 智仁
「システムテスト、ECUテスト環境の構築においてベクター製品のさまざまな機能をご活用いただき、大変嬉しく思います。今後も、お客様のテスト環境効率化のための製品、サービスのご提供に努めてまいります。」


Detailed information is available in the PDF data sheet VTシステムを用いたシステムテスト環境の構築(PDF形式)

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